かいろ(60歳)さんは、お漬物屋を営んでいる独身男性の個人事業主でした。
開業当時は、順調だったものの数年前からは、不景気や近隣に大手スーパーの出店等の影響で、売り上げは激減していました。
体調も崩し、若いときのように無理が利かなくなっていました。
貸金業者に対する返済や、仕入品の支払い、家賃の支払い等に窮していました。
そして、食費にもこと欠くようになり、私の事務所に相談に来られました。
かいろさん「個人事業を営んでいますが、とても続けることはできず、生活費もありません」
私「事業は廃業するおつもりですか」
かいろこうちさん「そのつもりです」
私「貸金業者への借金以外に、事業の借金はありますか」
かいろさん「備品のローンや仕入品の買掛金、家賃も滞納しています」
・・・・・(かいろさんと私の面談は、2時間をこえていました)
かいろさんは、自己破産を決意しました。そして、私は、破産手続きは、管財事件になると思われると説明しました。
私は、かいろさんと委任契約を締結し、すぐさま貸金業者に受任通知を出しました。
そして、ある一社に対して、100万円の過払い金と売掛金80万円の回収を果たすことができました。
債権調査の結果、債権者は9社(仕入先含む)借金は約300万円。
財産は、過払い金100万円、売掛金80万円でした。
委任契約締結の約3か月後、破産の申し立てをしました。
予想通り、管財事件です。
かいろさんは、私とともに、裁判所と管財人弁護士の事務所に出向きました。
裁判所から簡単な手続きの流れの説明を受けた後、管財人弁護士から申立についての質問等を受け、家計収支(家計簿)をつけて定期的に報告するという宿題をもらって帰りました。
かいろさんは、管財人に言われた通りに、家計簿をつけ、日々のお金の使い方を見つめ直し、反省しました。
管財人の債権調査や財産確認は、問題なく終了し、債権者集会の期日に再び裁判所に私とともに出頭しました。
債権者集会に集まった債権者は、いませんでした。
管財人から管財手続きの流れの報告があり、無事債権者集会は終わりました。
そして、かいろさんは、買掛金や貸金の支払い義務から解放されるとともに、99万円のお金が管財人から返金されたのでした。
かいろさんは、そのお金で生活費を確保するとともに、少ないながらも年金で生活を維持され、いまはデイケアサービスでできた友人との交流を楽しみにして生きています。
かいろさんの事件は管財事件でした。家賃を滞納しており、かつ明渡しができていませんでしたので、この点が一番気にかかりました。
明渡し(引越)は、かいろさんの友人に手伝ってもらい、引越費用はかかりませんでした。室内にあった備品なんかも古くて価値はほとんどなく、処分費用が余分にかかるほどでしたが、その処分費用もなんとかかからないように、ご自分で手配されました。
過払い金と売掛金あわせて180万円ほどありましたが、自由財産拡張の申立といって、99万円までの現金等の財産を残したまま(債権者への配当に回さずに)かいろさんの手元に残せたのは、本当によかったと思いました。
管財事件は、同時廃止事件とくらべると、手続きが厳格ですが、当たった事件は逃げることなく、精一杯対応することが大切だと再認識した事件でした。
紹介例は、実際にあった事件をもとに作成していますが、登場人物の「かいろ(仮名)さん」は実在しません。
自己破産の例をお分かりいただけるように、事件の骨子をご紹介しました。