平成29年春、私の事務所に1本の相談電話が入りました。
会社を突然解雇され、彼女にも振られ、精神的に追い詰められた40歳手前のある男性からでした。
すでに彼は、自ら社会的に孤立していると自分自身に自信を失っていました。
わきた(38歳)さんは、ある弁護士の先生に借金の整理を依頼していました。破産する上では、借金のしかたに問題がある事件でした。
その弁護士は、破産が認められない可能性が高いと判断し、個人再生を進めていました。
そして、申立をし、これから個人再生の手続きが始まるやさき、やっと再就職できた会社をまたもや解雇されてしまい、個人再生が認められなかったのです。
結局、個人再生が認められず、私のところに相談にきたのです。
無職の彼に残されていたのは、唯一自己破産でした。
私は、自己破産の説明をしました。説明が終わりに近づいたところで、
わきたさん「私は自己破産できるのでしょうか」
私「わきたさんには、破産を認めてもらう上で問題となる点があります。そこを裁判所がどのように評価するかですが、十分認められる可能性はあります。だから一緒に頑張りましょう。第二の人生のためにも、破産を成功させることが、重要だと思います。いまは、そう信じて頑張ることが第一だと思いますよ。」
私は、破産手続きを進めると同時に、彼の生活保護の申請に同行しました。
生活保護は、ほどなく認められ、彼は少し落ち着きを取り戻しました。
生活保護申請の約3ヶ月後、自己破産の申し立てをしました。申立の2週間後、わきたさんは、私とともに裁判所に出頭しました。
わきたさんは、15分間の裁判官からの質問に嘘いつわりなく、解答しました。
心配していた自己破産ですが、申立約2か月後、免責決定が出され、無事に破産がみとめられたのです。
わきたさんの真摯な対応と、反省、これからの決意が裁判所に認められたのです。
わきたさんは、その後再就職を果たし、生活保護を一日でも早く脱却できるように、頑張っています。
わきたさんの破産は認められました。免責不許可事由がある方でした。
破産法は、原則として免責不許可事由がある人の破産を認めていませんが、例外として裁判所の判断で免責を認めてもよいという規定になっています。
認めてもよいかどうかの判断が重要ですが、自らの借金増加の原因を自覚し、それを反省し、二度と同じような過ちを犯さないという点がポイントとなります。
それを再認識する事件でした。
わきたさんは、それを実行できた方でした。
紹介例は、実際にあった事件をもとに作成していますが、登場人物の「わきた(仮名)さん」は実在しません。
自己破産の例をお分かりいただけるように、事件の骨子をご紹介しました。