平成29年冬、司法書士(以下、「私」と書きます)に相談電話がはいりました。
やまぐみさん「ある男性司法書士の先生に、借金の整理をお願いしているのですが、先生のところでやってくれませんか」
私「どうして、その先生のところで、整理されないのですか」
私は、なぜ司法書士を変えようとしているのか、目の前のやまぐみさんに理由を尋ねました。どうやら、その先生は、やまぐみさんに自己破産を進言しているようです。
しかし、やまぐみさんは、自己破産を望んでいなかったのです。
借入先は、10社、借金総額は利息制限法に引き直しても、420万円ありました。
一人暮らしで会社員勤めとはいえ、収入はそれほど多くはなく、私も自己破産相当であると直感しました。
私は、やまぐみさんに、その司法書士と委任契約をきちんと精算することが事件をうけるためには必要であることを伝え、やまぐみさんは、その司法書士との委任契約を精算しました。
私は、個人再生の説明をしました。毎月の返済額を下げて、自己破産を回避できると判断したのでした。
しかし、やまぐみさんは、個人再生も拒否しました。支払うべきものは、やはり全部支払いたいという思いが強かったのです。
私は、任意整理だと毎月の返済額は7万円近くなり、かつ返済期間も5年という長期になることを説明し、やまぐみさんの意思を確認しました。
やまぐみさんは、「やり遂げます」と力強くお答えになりました。
そこで、私は、やまぐみさんが毎月返済に回せる金額を慎重に査定して、やまぐみさんの了承をもらい、10社の債権者と分割返済の交渉に臨みました(各債権者の債権額は、140万円未満)
そして、毎月6万円強、返済期間約6年強という長期の分割交渉に成功したのです。
やまぐみさんは、やっとの想いで返済を終了させました。各債権者との和解後も、私はやまぐみさんとの委任契約を継続し、やまぐみさんの返済状況を見守りました。
しかし、一度も返済に遅れることなく、やまぐみさんはやり遂げたのです。
前の司法書士の先生の自己破産が相当であるという判断は、間違いではなかった思います。
ただ、やまぐみさんのその先生に対する信頼がなかったのだと感じました。
やまぐみさんからすれば、その先生に自己破産を押しつけられそうな気がしたと言っていました。その先生の真意は分かりませんが、専門家と依頼人の間の信頼関係が重要だと再認識した事件でした。
また、自己破産がふさわしいと判断した事件でも、その人の強い意志があれば、それを回避できる可能性があると感じた事件でもありました。
しかし、やまぐみさんの苦労は、並大抵ではなかったと思います。
紹介例は、実際にあった事件をもとに作成していますが、登場人物の「やまぐみ(仮名)さん」は実在しません。
任意整理の例をお分かりいただけるように、事件の骨子をご紹介しました。